半年で(メジャーな)第二外国語を身につける方法

英語学習エントリに触発されて、第二外国語学習エントリを書いてみようと思います。

英語とその他の外国語で、学習方法が本質的に違うということはもちろんないのですが、中高 6年間にわたって学校で勉強する英語と、基礎がほとんどない状態から始める第二外国語では、細かいところでいろいろと違いがあります。

ちなみに私自身は、これまで英語以外には中韓西伊仏独露の 7言語を学んでいます(レベルはまちまち)。この中で中韓は留学して身につけた(中国に一年留学、ルームメイトが韓国人)もので、その他は日本国内で学んだものです。

今回は、日本国内で勉強するやり方について書こうと思います。

注意事項は次の 3点です。

  1. 私が学んだ言語は、すべて日本国内で教材が豊富に手に入る「メジャー外国語*1」ですので、マイナーな外国語には適用できない部分も多いかと思います。ご了承ください。
  2. 途中で高価な教材を紹介し、それの使用を前提としています。また、基礎的な英語能力も前提としています。
  3. ここで書くことは私個人の経験・意見ですので、すべての文に(要出展)がついているつもりでお読みください。

1. 適性

身もふたもないことを言ってしまうと、外国語学習には適性があります。母国語は誰でも自然と話せるようになっています。また、ある言語が話されている環境に身を置き、かつその言語を話さなければいけない状況に追い込まれると、誰でも多かれ少なかれその言葉を身につけることになります。

しかし、そういう環境にないところでの外国語学習というのは、誰にでもできるものではありません。センスのあるなしがあります。センスがある人が文法書を読んで単語を覚えた上で外国語の文を読むと、それを曲がりなりにも「言語」として解釈できます。ですが、中にはセンスがない人もいて、そういう人が外国語の文を見ると、それを部分部分に分解してしまうことがあります。例えば「この "for" はどういう意味なのか、"for" は『〜のために』という意味のはずなのにそれでは意味が通らない」といったような具合です。

英語でいう前置詞や、日本語の「てにをは」のようなものは、それぞれがとても広い意味を担っていて、「"for" =『〜のために』」というような単純な等式は成り立ちません。そういう語に対しては、漠然と頭の中に「"for" のイメージ」のようなものを作って、実際の文に触れる中でそのイメージを正確にしていくというのがいいのです。ですが、単語対単語で解釈したくなってしまう人は、その方法を知らないということもあるかもしれませんが、そういう「漠然としたイメージを頭の中に作ること」が苦手なんじゃないかという印象を受ける人もいます。

ですが、日本国内で外国語を学ぶには、そのようなセンスが必要になります。それがないと自覚している人で、どうしても外国語を身につける必要に迫られたという場合は、前置詞のようなものには深入りせず、できるだけ多くの単語を覚えて、現地で身につけるのが近道なのではないかと思います。単語さえ覚えていれば、「私、今日、学校、行く」といった調子で最低限のコミュニケーションは取れるので、それを武器に体当たりでぶつかるうちに、自然に磨かれていくということもあるでしょう。

ここから先は、日本国内で外国語を身につけられると思う方を対象とします。

2. 発音・文法

発音に関しては、「その言語で区別される音」に気をつけるようにしてください。英語を例にすると、"hat" と "cut" では母音が違うといったものです。初心者向けの文法教材には CD が付属しているものが多いので、それを使うのがよいでしょう。

英語の話であれば、発音記号の重要性について一段落を設けるところですが、幸いここで対象としている「メジャー外国語」の中には、表記と発音のずれが英語のように悲惨なことになっている言語はありません。綴り字と発音の関係を頭に入れたら次に進みましょう。

「メジャー外国語」の中では、特に中国語を学ぶ時に、この段階に相当の時間をかける覚悟をしてください。というのは、中国語は特に「ちょっとやっただけでは通じる発音ができるようにならない」言語だからです。他の言語では、初心者向けの本に書いてあるカタカナ発音を読めば、まあ多かれ少なかれ通じます。ですが、中国語の場合はカタカナを読んでもまったくといっていいほど通じません。私も 2回挫折して、3回目でようやく軌道に乗りました。

また、中国語の場合は「漢字」ではなくすべて「ピンイン」で学ぶようにしてください。

文法に関しては、その言語の文法に対する概要をつかむ程度でいいでしょう。文法書を数日かけて読み込んでください。

3. Pimsleur

いきなり具体的な教材名です。しかも高い。そして教授言語は英語です。

この教材は、レベル 1 から 3 まで、それぞれ 30課のレッスン(各30分)から構成されています。各レベルごとにパッケージになっていて、それぞれ定価で三万円近くします。

まあ法外な値段なのですが、これがあるとないとでは大違いです。私が最初にこの教材に触れた時には、「ついに外国語スキルも金で買える時代になったか*2」と、外国語好きな自分の優位性がなくなってしまったと思ったものです。まあ、実際にはそんなことはありませんでしたが。


各課のメインを占めるのは次のような内容です。

(1) ある構文・単語が意味と共に紹介される。復唱する。
(2) 新しく紹介された構文・単語を、それまでに習った構文・単語と組み合わせた文を作るよう英語で要求され、数秒間のポーズが入る。回答する。
(3) 正解を教えられ、数秒間のポーズが入る。復唱する。


ある時点で「私は何かを食べたいです」(私、何か、食べる、〜したい)という表現をそれまでに学んでいるとします。すると、次のステップは、例えば次のようになります。

(1) 「飲む」という単語が紹介される。復唱する。
(2) 「私は何かを飲みたいです」と言うよう英語で要求される。回答する。
(3) 正解を教えられる。復唱する。
(1)' 「ビール」という単語が紹介される。復唱する。
(2)' 「私はビールを飲みたいです」と言うよう英語で要求される。回答する。
(3)' 正解を教えられる。復唱する。


この教材の優れたところは、「自分で考えて文を作り、それが正しいということを確認する(あるいは、間違っていると認識する)」という過程です。

この例でいうと、「私は何かを食べたいです」という文しか聞いたことがない状態で「飲む」という動詞を紹介されて、そこで自分で「私は何かを飲みたいです」という新しい文を作り出さないといけません*3。単純なリピートじゃないので、言いながら自信がない。それに対して、正解として正のフィードバックを受けることができる。このようなプロセスによって、「自分で文を作り出す」ということに対する自信がつきます。

また、この教材には復習の過程が組み込まれています。例えば、「『食べる』は "mangiare" だ」ということを学んでも、数分後には忘れているのが普通ですが、この教材では、5秒後・25秒後・2分後・10分後、次の日のレッスン、5日後のレッスンというように、だんだんと間隔を広げて復習を要求されるため、記憶に定着しやすくなっています。

使い方としては、毎日欠かさず最低 1回、できれば 2回ずつするのが理想です。食事の用意・片付け・洗濯などの、主に体を使う作業をしながらでもできますので、そうすると時間が有効活用できていいでしょう。

価格についてですが、「外国語学習にかける総コストの中での割合」を考えてみてください。ここで想定しているような中級レベルに達するには、1日 4時間でも半年は最低限かかります。その時間を使って働くことを考えると、時給 800円でも 60万円近くになります。外国語学習というのは、それだけのコストをかけることが前提になっています。それを考えると、9万円(定価で買ったとして)というのはそれほど大きな割合ではないことになります。

そうは言っても、1レベル分の 3万円でも、「勧められたから」といってパッと買える値段でないのは確かですね。公式サイトには各言語の第一課があるので、やってみてください。

また、状況が許せば「私的複製」として合法的にコピーすることもできます。中古購入といった手もあります。自分の倫理観が許す範囲で手間とコストを秤にかけて、最適なルートを使ってください。

ただ、一度に 3レベルを購入することだけはお勧めできません。90% の人が 1レベル目で脱落すると思います(難しいということではなく、そこまで外国語学習に情熱を持てる人は珍しいということです)。

4. 単語習得

国語学習には、読書(後で出てきます)はもちろん欠かせないのですが、その時にあまりにも単語を知らないと、ちっとも前に進まないということになりがちです。最近、英語の古本を買う機会があったのですが、1ページ目の初めの段落に 5単語に 1個ぐらいの割合で鉛筆で下線が引かれ日本語の意味が添えられていて、20語ぐらい続いた後でぱったり途絶えているのを見て切ない気分になりました。外国語学習者にとってはあるあるな状況ではないでしょうか。

やっぱり、単語はある程度覚えてしまうのが一番です。私が高校生のころは、英語の単語学習をろくにせず(5000語レベル?)、多読で身につけていましたが、それはそれだけの時間とエネルギーがあったからです(逆に言うと、時間とエネルギーが有り余っていたら、5000語レベルから読書を始めてもいいと思います)。

私の感覚では、8000〜15000語ほど覚えるのがいいようです。8000語ぐらい覚えていると、やさしめの小説であれば知らない単語は 1ページに数語、またそれらの多くは知っている単語から意味が推測できるという程度です。単語帳としては、そのくらいの語数のミニ辞典を使うのがいいでしょう。

単語を覚える際には、私はとにかく毎日単語帳(ミニ辞典)を読むようにしています。これは「村上式シンプル英語学習法」を参考にしました。

1語につき 1秒を目標に、一日一時間なら一時間、辞書を読みます。それで例えば単語帳の 1/3 まで読めるとすると、それを 1か月ほど続けます。そうすると、1単語につき 30回見たことになるので、覚えやすい単語(基本的な単語・英語と形が近い単語など)はだいたい覚えられていることになります。

しかし、どうしても覚えにくい単語はあります。そういう単語は、最初の 1か月が終わった段階でリストに書き出し、一日 27単語(私の場合)のペースで別途覚えていきます。仕事をしている人なら、朝の通勤前に 9語を頭に入れ、歩きながら頭の中で復習し、昼にまた 9語、帰りにまた 9語という具合です。

こうやっていくら頑張っても、どうしても意味を忘れてしまうことはあります。でも、これだけやれば「覚えたということさえ忘れる」ということはあまり起こりません。

5. 読解

単語学習で覚えた単語は、それだけでは「見たことがあるけど意味はなんだっけ…」となりがちですが、文の中で文脈とともに見ると意味が思い出しやすく、またそのようにして確認した単語は二度と忘れることがありません。また、熟語や慣用句、新語や辞書に載っていない口語的な単語なども読解で補完していきます。

(1) 漫画

会話文が多いという点では、漫画に勝るものはなかなかありません。会話と地の文では、前者のほうが親しみやすいので、最初にそちらに慣れておくのがいいでしょう。私はたいてい日本漫画の翻訳を読んでいます。昔は手に入れるのに苦労しましたが、今であればそれほどの苦労はないでしょう。

(2) 書籍

簡単なものから始め、だんだんと難しくしていきます。個人的なセレクションは「マチルダはちいさな天才」(ロアルド・ダール)、「大どろぼうホッツェンプロッツ」(オトフリート・プロイスラー)、「ふたりのロッテ」(エーリッヒ・ケストナー)、「穴 Holes」(ルイス・サッカー)、「モモ」(ミヒャエル・エンデ)、「変身」(フランツ・カフカ)、「シーラという子」(トリイ・ヘイデン)、「ナイルに死す」(アガサ・クリスティー)、「ノルウェイの森」(村上春樹)などです。子供のころに読んだ好きな童話などを探すのがいいでしょう。

原書を読みたいところだと思いますが、たまたまちょうどいいものがある場合(ここで挙げたドイツ語のような)を除き、あまりこだわらないでいいと思います。原書は教材にするには古いということもあります(例えば日本語の読解として夏目漱石を読むことを考えると、今では使わないような表現もちょくちょく出てくるので、そういうものがそうとわかるレベルになってから読むのがいいということです)。

6. 音読・復唱

Pimsleur の 90課を終えれば、スピーキングは日常会話レベルになっていると思います。ここで言う日常会話レベルというのは、「何が食べたい?」「コップはどこにあるの?」「何時に集まる?」「あの人はなんて言ってた?」といった、限られた語彙で構成される、普段の生活で必要となることが伝えられるレベルです。それはそれで役に立つのですが、例えば「日本ではどういう風に年を越すの?」といった雑談になると、とたんに言いたいことが言えなくなってしまいます。ここでは、日常会話レベルを雑談レベルに引き上げることを目指します。

ここで使うのが、「○○人が日本人によく聞く100の質問」といった教材です。パートナーがいれば、手順は次のようになります。2〜4 は 1文ごとに繰り返します。

  1. 音声を聞きながら、全体を通して 10回ほど繰り返して音読する。
  2. 最初から音声を流して、一文が終わったところで、その文を思い出しながら復唱する。
  3. 日本語訳を言う。
  4. もう一度、記憶を頼りに原文を復唱する。

2〜4 の過程はパートナーに聞いてもらい、間違ったところがあれば指摘してもらいます。

この方式のいいところは、言い間違えたらすぐに訂正してもらえるということです。実際の会話では、相手がネイティブであっても間違いを指摘してもらえないほうが多いのですが、もちろん指摘してもらえたほうが身につきます。また、スペイン語やイタリア語といったローマ字の知識で読みやすい言語であれば、相手にその言語の知識が必要ありません。

一人の場合は、この方法は使えません。音読パッケージ を参考に、音読・リピーティング・シャドウイングを織り交ぜるのがいいと思います。

ところで「○○人が日本人によく聞く100の質問」といった教材は西伊露独中で出ているのですが、音声があるのは西伊だけで、伊は絶版(私は図書館で借りました)、他は音声なしです。音声なしの場合、ネイティブに頼んで録音してもらうなどの手間が必要になります。どうしてもそれができない場合は、自分で吹き込むという最終手段もあります(発音矯正効果はなくなりますが)。

7. ネイティブとの会話

音読・復唱で雑談レベルの会話力を身につけたら、いよいよネイティブと話をします。待ちきれなければその前から始めてもいいのですが、実力がついてからのほうが身のある会話ができるでしょう。

私はスペイン語には http://www.121spanish.com/、イタリア語にはhttps://www.verbalplanet.com/ を使っています。

8. その先

ここまでの内容は、1日 4時間であれば半年ほど、1日 2時間であれば 1年ほどで終えられると思います。それでだいたい、英語で言うと高校卒業レベル程度になっているでしょう。そこから先は、その言語を実際に使いながら鍛えていくのがいいのではないでしょうか。

その他

ここまで、私にとってうまくいった勉強法を紹介しました。ここから先は、個人的にうまく行かなかった・賛成できないやり方について書いていきます。

(1) 単語を壁に貼る

見ません。

(2) 外国語を流しっぱなしにして聞き流す

身につきません。

(3) 単語を覚える時、動植物はスルーする

千葉栄一先生の「外国語上達法」で提唱されていますが、個人的にはあまり賛成しません。単語帳(ミニ辞典)には「ホロホロチョウ」、「オオヤマネ」といった見慣れない動植物も出てきたりしますが、それらはその言語の中で親しみのあるものであるからこそ収録されているわけです。また、「トカゲ」「コウモリ」といった普段使うことの少ない単語も、子供向けの本にはよく出てきます。私は、他の単語と区別せずに覚えるようにしています。

(4) ○○大学○○語教材といったものを使う

有名大学の教材は、いかにも文化の香りのする高尚な題材が選ばれていたりして、いかにも難しいことをやっている気分になれるのですが、たいていの人にとって英語以外の外国語はゼロから始めるものなので、英語で言う高卒レベルに持っていくのも一苦労です。基礎力固めを行い、現地の大学に数年留学した後に読むのならいいですが、あまり早い段階で小難しい教材を選ぶのはやめましょう。


というわけで、個人的な外国語学習法について書いてみました。

N-gram かな漢字変換がなかなか進まないので、現実逃避です。


最近、この方法でイタリア語をやっています。

自分の将来には 1ミリも役に立たないけどね!

*1:価値判断は含んでいません

*2:Pimsleur 方式が開発されたのは 1960年代、商業的に売り出されたのが 1980年代なので、私が知らなかっただけでずっと昔からあったわけです。

*3:この文の場合、ここで挙げたような「メジャー外国語」ではだいたい原形から作れますが、日本語では「飲む」から「飲み」を作る必要があり、それは「食べる」の場合とは違うので、この通りにはいきません。そのような場合、「飲みたい」のような形で紹介されることになります。