ネイティブにとって重要な発音の違いを区別する
最近、"volatile" の発音についてのネタを Twitter で見ました。
「ヴォラタイル」はイギリス英語だとか、そういう話です。
確かにアメリカ英語では「ヴォラトゥル」のような発音が多いのですが、「ヴォラタイル」と読んでも「イギリス人か!」ということにはなりません。
アメリカ英語でも、どちらの発音もあります。
Wordreference.com の議論の中で、アメリカの人がこう言っています。
I would say that I more often hear the schwa for the last syllable of volatile -- but the long "i" is also common.
まあ、仮に純然たるイギリス英語だったとしても、それの何が悪いんだという話ですが。
で、この話を見て感じたのは、「そんなネイティブにとってどうでもいいところを気にするより、もっと先に気にするところがあるだろう」ということです。
何と何が同じ音で、何と何が違う音かというのは、言語によって違います。
日本語の「おじさん」と「おじいさん」の区別が多くの外国人にとって難しいという話は有名ですね。
日本人にとっては、母音の長短と高低アクセントという二重の区別があるので間違えませんが、どちらも区別しないという言語は多くあり、英語もそのひとつです。
一方、日本語ではどうでもいい区別が、英語では重要な区別だということもあります。
たとえば、「オー」と「オウ」というのは日本人にとっては非常にどうでもいいところです。
英語を話していて "coat" を「コート」と発音したら、「違うよ、それは『コウト』だよ」と言われたら「ウザッ」と感じるのではないでしょうか。
でも、「オー」と「オウ」の区別は、英語ではとても重要です。
ネイティブスピーカーにとって、これらはまったく違う音に聞こえます。
日本語を勉強しているアメリカ人が「おじいさん」を「オジサン」と発音していたら、ウザがられても直さないといけないのと同じです。
逆に、日本語では重要な区別が、英語では比較的どうでもいいということもあります。
たとえば「アー」と「オー」というというのは、日本語ではまったく違う音ですが、多くの英語話者(特にアメリカ英語の)にとってはたいして違わない音です*1。
catch の過去形の caught は、カタカナにすると「コート」ですが、口を大きく開けて*2「カート」のように発音しても通じます。
chalk も、「チョーク」でなく「チャーク」と言っても大丈夫です。
つまり、日本語話者にとって
カート (越えられない壁) コート 〜 コウト
であるところが、英語話者にとっては
カート 〜 コート (越えられない壁)コウト
ということになります。
ですので、"volatile" を「ヴォラトゥル」と読むか「ヴォラタイル」と読むかということより、
"code" を「コード」ではなく「コウド」と読むことのほうがずっと重要です。
で、この「オー(アー)」と「オウ」の区別は、綴りからある程度はわかる(「al, aw はオー(アー)」など)のですが、基本的に無理ゲーです。
たとえば、"road" は「ロウド」なのに、"broad" は「ブロード(ブラード)」です。
こんなのわかるわけないです。
というわけで、結局発音記号を見るしか方法はありません。
英語の単語を覚えるときに発音記号を見ないというのは、日本語の単語を覚えるときにカナを見ないというのと同じです。
ここで挙げた「オー(アー)」と「オウ」の区別のほかにも、英語の発音には "monkey" と "donkey" の母音が違うといった落とし穴が多くありますので、どうやっても発音記号を避けて通ることはできません。
流れとしては、ここでいい教材を紹介するところなのですが、私は学校の授業や辞書などで身につけたのでよく知りません。
でも一応、せっかくなのでネットで見つけたよさげな教材を無責任に貼っておきます。
「ネイティブが区別する音を区別する」「アクセントを間違えない」という二点に気をつけるだけで、通じるかどうかがだいぶ変わってくるので、意識してみてください。
逆に言うと、これらを意識していなければ、通じないのは当たり前です。
"hotel" という単語を "ホテル" と読んだり。
私の発音もネイティブとはほど遠いのですが、それなりに通じるのは、"ホウテル" のように言うようにしているからです。
最後に、IT関係で間違いやすい発音ネタをひとつ。
テストなどで SetUp() や TearDown() という関数を目にする機会が多いと思いますが、後者の発音は「テアダウン」です。
「ティアダウン」なんて読むと、「ヴォラタイル」どころじゃなく恥ずかしいので気をつけましょう。