三修社の第二外国語教材その2・「耳が喜ぶ」シリーズ
前回の「口が覚える」シリーズに引き続き、「耳が喜ぶ」シリーズのイタリア語版を買ったので、またレビューを書いてみます。
まず、この教材の構成から。
本のほうにはイタリア語と日本語が左右に並び、CD にはイタリア語だけが収録されているという、中級教材としてはスタンダードな構成で、「口が覚える」シリーズに比べると特徴のないものになっています。
次の 4 つに分けて書きます。
1. 速度
2. 難易度
3. テーマ
4. 総評
1. 速度
本には「ネイティブの速度に慣れれば、イタリア語が楽しくなる!」「本書付属CDは、ネイティブスピードで録音しています。」のようなうたい文句があります。
でも、期待のしすぎは禁物です。全体を通して、教材としてはごく普通の速度で録音されています。ネイティブが普通に読んでいるという意味では、もちろん「ネイティブスピード」ではあるのですが、教材のために発音に気をつけて読むという時点で、映画や現地でのカジュアルな会話などに比べると、非常に聞き取りやすいものになっています。もっとも、教材としてはそのような「聞き取りやすさ」の長所があるのですが、宣伝文句をあまり真に受けないほうがいいということです。
「繰り返し聞いていれば、毎回部分的に聴き取れる箇所が増え、自然に聴き取れるようになっていきます。」と書いてありますが、このスピードで聞き取れなければ、それは語彙不足ではないかと思います。先に語彙を強化したほうがいいでしょう。
2. 難易度
「はじめに」には、次のようにあります。
STEP 1 は実用イタリア語検定 5 級、STEP 2 は 4 級、STEP 3 は 3 級以上に相当します。
いやいや。
これは大嘘です。
たとえば、STEP 1 の 26、"Lo sciopero" の出だしです。
Uno dei problemi in cui gli studenti stranieri si imbattono in Italia è lo sciopero.
イタリアに住んでいる外国人学生がぶち当たる問題の一つはストライキでしょう。
実用イタリア語検定 5 級には関係代名詞が出るんですか? どこの並行世界の話ですか?
いや、実際に 5 級レベルで作ろうと思ったら面白いものは作れないと思うので、5 級レベルでないのはいいんですが、看板に偽りありと言われても仕方がないでしょう。
実際には、全篇を通して難易度に大きな変化はありません。
後のほうになるほど長くなり、内容としても複雑になってはくるのですが、文法事項や語彙の面では最初から手加減がありません。
3. テーマ
一番の魅力はこの点です。
これについては、「イタリア人の生活から、歴史、現代社会まで、イタリア理解が深まる 110文を収録。」という看板に偽りはありません。
いくつかテーマを抜粋します。
STEP 1
16 トラステヴェレ
31 白い週
44 ベスパ
49 アグリトゥリズモ
STEP 2
15 スローフード
36 ガチョウゲーム
STEP 3
5 非正規雇用
14 デジタルなラテン語教師
17 長寿の村
タイトルからテーマの多様さが伝わればと思いますが、このほかにもタイトルからはわからないような面白いものもあります。STEP 2 の 11「携帯電話」は、ある市長が自分の携帯電話番号を市民のための掲示板に公開した話、12「売家」はサッカー選手が売家広告にライバルチームのファンには売らないと条件をつけた話、といったものです。
4. 総評
「ネイティブスピード」「実用イタリア語検定 5級」といった言葉に惑わされなければ、多様なテーマという長所を持った、優れた中級教材だと思います。
シャドウイング・リピーティング・暗唱などの材料として最適ではないでしょうか。
音声とテキストのセットというのは、ネットで探そうと思えば探せるのですが、実際にこれだけの質・バリエーションを持ったものを探そうと思うとなかなか大変です。
私も昔はネットで教材を必死で探したりしていたのですが、語学の教材については、CD 付きの教材を買うのがやはり近道なのではないかと最近は思うようになりました。
今はカフカの「変身」の本とオーディオブックを持っているのでそれを暗唱しているのですが、いつまでたってもグレゴールがベッドの中であれこれ考えているばかりで役に立つ語彙もなかなか出てきそうにないので、この本に乗り換えようかと考えています。
あ、そういえば「ネイティブスピード」という意味では、iTunes Store などでイタリア人向けのオーディオブックを購入して、その底本も探して買うのがいいですね。といっても、オーディオブックはダイジェスト版だったり、翻訳の場合は同じバージョンを探すのが大変だったりして、それもなかなか難しいのですが。
もう一度リンクを張ります。イタリア語以外には、中国語とスペイン語も出ているようです。
個人的には、ロシア語版を期待しています。